先日、AVENUE Educationを応援してくださっている志門医学舎さんと共催して「医学を志す」特別企画をオンライン開催いたしました!
今回のテーマは、近年問題になっている「医師の偏在」でした。
また、今回は朝倉医師と大学時代の同期で、国民健康保険上川医療センター・院長でいらっしゃる安藤高志先生にもご参加いただいきました。
今回もご参加いただいた学生さんたちに大変ご好評いただきましたので、その様子のレポートをお届けいたします。ぜひ最後までご覧ください!
「医学を志す」特別企画・企画内容
今回の「医学を志す」も、2日間にわたり開催しました。
前回のテーマは、新型コロナウイルスから考える「これからの医師に必要な情報発信」について取り上げました。
今まだニュースに取り上げられる新型コロナウイルスですが、今回の「医学を志す」でもこのウイルス拡大で注目されている「医師の偏在」について、学生さんたちに考えていただきました。
1日目はAVENUE Education副代表の朝倉医師による講演で、
- 医師の偏在の現状と問題点
- 現在行われている対策
などについて、学生さんたちに理解を深めてもらいました。
2日目は、1日目に課された課題をもとにグループワークとプレゼンテーションを行い、最後に安藤先生からご講演をいただきました。
あなたは地方都市の医大生です。この県では医師不足が深刻で、県内でも特に北部地域で顕著になっています。県知事より「これからを担う医大生にも意見を聞きたい」と依頼があり、代表として会議に参加することになりました。県全体の医療体制の拡充、さらに圏内にもある医師の偏在に有効な対策を考えてください。
医師の偏在問題は、医師の働き方問題にもつながります。
学生さんたちはそれぞれの視点から医師偏在の問題を考え、現役医大生とともに熱心にディスカッションしている様子が印象的でした!
朝倉医師による「医師の偏在とは」
再流行の兆しを見せる新型コロナウイルスによって顕在化した問題が「医師の偏在」です。
新型コロナウイルスの医療体制を表す「新型コロナウイルス対策ダッシュボード」によると、8月4日時点での医療体制は以下の通りになっています。
都道府県ごとの対策病床数を見てみましょう。
- 東京都:4,800床
- 神奈川県:4,698床
- 大阪府:2,639床
このような大都市圏に対し、大都市圏外では
- 山梨県:101床
- 青森県:129床
- 岩手県:38床
となっています。
数値だけ見ると、対策病床数に大きな差があることがわかります。
地域により人口も違い、純粋な比較はできません。しかしそれでも、地方都市の医療体制に不安が残る点は否定できません。
医師の偏在の現状
新型コロナウイルスの対策病床数からもわかるように、日本における医師の偏在問題は存在しています。
具体的に医師の偏在は、
- 地域による医師の偏在
- 診療科による医師の偏在
という形で現れています。
地域における医師の偏在
2014年の二次医療圏ごとの人口10万人対医師数を見てみましょう。こちらの図では、地域ごとの医師数を色別に確認することができます。
赤色で示されている地域は医師数が多く、青色で示されている地域では医師数が少なくなっています。
この図から、
- 西日本の医師数は多いが、東日本の医師数は少ない
- 地方都市でも県庁所在地は医師数が多い
ことがわかります。
診療科における医師の偏在
また診療科でも偏在化が起こっています。診療科別医師数の推移のグラフを見てみましょう。
医師の総数は1994年から増えています。特に麻酔科・放射線科・精神科で医師数の増加が顕著です。
一方で外科・産科・産婦人科では医師数が減少しています。これらの診療科では、まだ医師不足であることが予測されます。
医師の偏在は医師に大きな負担となる
「医師の偏在」は、大都市圏に住んでいる人々にとって身近な存在ではないでしょう。
しかし、医療現場では
- 医師が足りず患者に対応できない
- 当直などの医師にかかる負担が大きい
などの問題が起きています。医師の偏在は医師の疲弊につながり、本来であれば救えるはずの命が救えなくなってしまうのです。
医師の偏在への対策
医師の偏在問題の解決に向けて、様々な対応が進んでいます。
現在行われている主な対策に、以下のものが挙げられます。
- 2008年から医学部の入学定員枠を増やす
- 医学部で地域枠・指定診療科枠を新しく設ける
- 地方都市で医師研修プログラムを実施する
- 医師を集約化し、地域医療を維持する
それぞれ詳しく見ていきましょう。
2008年から医学部の入学定員枠を増やす
2008年度から医学部入試で、入学定員人数を増やしました。
そもそも医学部以外の大学入試では、入学定員数よりも多くの学生を受け入れます。しかし医学部入試では、定員数ときっかり同じ入学者数しか受け入れることができないように定められています。
そこで文部科学省は、医学部の入学定員数を増やす方向で舵を切りました。
例)横浜市立大学
- 2007年度:医学部定員60名
- 2008年度:医学部定員80名
- 現在:医学部定員90名
このような動きのかいもあり、年々医師数は増えています。2023年には、先進国での医師数平均値(OECD加重平均)を上回る予測になっています。
医学部で地域枠・指定診療科枠を新しく設ける
医師数が増えても、医師不足が深刻な地域や診療科の医師が増えるとは限りません。そこで医学部受験の段階で、地域枠や指定診療科枠が設けられました。
これらの枠は、受験のタイミングで「将来医師として、特定の地域や診療科で従事する」ということを約束して入学する枠になります。この枠で入学すると、大学によっては授業料などが免除されることもあります。
このように、受験の段階で医師不足が懸念される地域や診療科に従事する医師を確保するための枠を設けることで、この問題解決を目指しています。
地方で医師研修プログラムを実施する
ここまでの取り組みは、医学部受験の段階での取り組みでした。
入学後にも医師の偏在問題解決のための取り組みがされており、その1つが地方で医師研修プログラムを実施することです。
これは、総合診療・家庭医の研修を秋田県で受けられるプログラムです。
医師になった後働く地域を考える際に、
- 今まで住んだことがない地域
- 今まで行ったことがない地域
など、今まで関わりのなかった地域を選ぶ人は多くありません。そこで医師を欲している地方都市が医師研修のプログラムを実施し、地域の医師の偏在問題解決に向けたアプローチをしています。
医師の集約化による地域医療の維持
医療現場で行われている取り組みが、医師を集約化することです。
例)北海道釧路市での循環器内科医集約
北海道釧路市では循環器内科医が集約化されました。釧路市には3つの病院があり、そのうちの1つの病院で循環器内科医4名全員が退職しました。そこで、その他2つの病院に属していた循環器内科医がその病院に移籍し、その病院が一手に循環器内科を引き受けることになりました。
医師の集約化は、医師一人あたりの負担を軽減します。すると、安定した医療を提供することが可能になります。
このように、すでに医師不足に悩む地方都市では、医師を増やすだけではなく、医療体制を改めることで医師の偏在問題に取り組んでいます。
グループワーク「医師の偏在を解消するためには?」
朝倉医師の講演の終わりに、参加した学生さんに課題が発表されました。
あなたは地方都市の医大生です。この県では医師不足が深刻で、県内でも特に北部地域で顕著になっています。県知事より「これからを担う医大生にも意見を聞きたい」と依頼があり、代表として会議に参加することになりました。県全体の医療体制の拡充、さらに圏内にもある医師の偏在に有効な対策を考えてください。
前回のプレゼンテーションとは違い、今回は現役医大生を含めたグループディスカッションです。
課題に対して、2つのグループに分かれてディスカッションを行ってもらい、その後それぞれプレゼンテーションをしてもらいました。
グループディスカッションの様子
どちらのグループも、オンライン上とは思えないほど積極的に発言をしている様子が印象的でした。
ここでは、各グループの発表をお伝えしていきます。
グループA
グループAはまず、学生さんが事前に考えた課題の解決策をそれぞれ発表しました。
<事前に考えてきた解決策>
- 医師を含む医療従事者チームで地方へ行くことで、医師の負担を減らす
- 30代は家庭がある可能性が高く、20代が研修から地方へ行く方が現実的である
- 地方都市に医師が興味を持てる環境を作る
発表後改めて、「なぜ医師が地方に行きにくいのか」を考えました。
<地方に医師が行きにくい理由>
- その土地に慣れておらず、環境に慣れるのに負担がかかる
- 若い世代はスキルアップを気にするので、設備が不十分な地方より都市部を選ぶ
- 地方は女性が働きにくく、また医師が少ないので一人あたりの負担が大きい
これらの問題点を明確にした後で、解決策を考えました。
<解決策>
- 総合診療化の促進
- 地方での研修の実施
- 設備不足解消のための病院集約化
- 地方で医師がスキルアップできる研修会等の実施
グループB
グループBはまず、医療体制と医師偏在の問題点を明確にしました。
<医療体制と医師偏在の問題点>
- 病院が少なく、労働環境に対する不安がある
- やりたいことができるかどうかわからない
- 住民から見た医療への不安がある
- 医療を十分に受けられない可能性がある
そしてこの問題点への解決策を、短期スパン・長期スパンで考えました。
<短期スパンの解決策>
- 遠隔医療の導入
- 医師偏在をなくす制度を作る
- 資金援助を受ける
<長期スパンの解決策>
- AIを使って業務を効率化する
- 地方で医療に従事する人へ特典をつける
朝倉医師の講評
発表、ありがとうございました。どちらのグループも非常に面白い発表でした。
例えば、医師が地方へ行くことへインセンティブを持たせることなどは、とても興味深かったですね。医師も人間ですから、こういった視点は大切かもしれません。
また、AIや遠隔診療はすでに取り組み始めている企業もあります。
このように、今取り組み始めていることを学生の皆さんが考えていることはとてもすごいと思います。
安藤先生のご講評
発表、お疲れ様でした。どちらも、とても面白い発表でした。
医師に対してインセンティブをつける点ですが、医師や医療従事者も生活者である、という目線は意外と忘れがちな目線ですが、とても重要な点だと思います。
また、AI診療は今とても話題になっていますが、ここで一つ考えてほしいのが「患者さんは果たして診療を望んでいるのか」ということです。
患者さんが求めている本質的な問題を考えることが大切でしょう。
安藤先生のご講演
2日目のグループワークの後は、安藤先生に北海道家庭医療学センターでの取り組みについてご講演いただきました。
安藤先生が従事されている北海道上川町の医療体制は、人口3,500人に対して診療総合医3名、人口10万人に対する医師数は85.7人となっている地域です。
人口10万人に対する医師数の全国平均が246人であることを考えると、「医師が不足している状態」だと言えるでしょう。
しかし、本当に上川町は医師不足なのでしょうか?
結論から言えば、ここで示されている数値と実感は違います。これは上川町の医師が総合診療医であることも関係しているでしょう。
総合診療医とは
総合診療医の役割は
- あらゆる不調の相談に乗り、適切に医療者を紹介すること
- 患者中心の継続的なケアを提供する
- 生活・地域目線による包括医療を提供する
- コストパフォーマンスの努力をする
- 患者をバランス良くサポートする
このように、地域に寄り添い、地域に根差し、重大な疾患を逃さない臨床能力が求められるのが総合臨床医です。
ある研究によると、94%の医療は地域で解決できると言われています。
1000人の人口がいた場合、
- 体調不良を感じているのが750人
- 体調不良者のうち医師にかかるのが250人
- 医師にかかった患者のうち専門医のもとで入院が必要になるのが10人
- 入院患者のうち大学病院が必要になるのが1人
だそうです。
総合診療医が担当するのは、体調不良者で医師のもとを訪れる250人で、そのうちの94%は総合診療医の治療で十分なのです。今後、総合診療医はますます重要になるでしょう。
現在の疾患・患者が変化している
このように求められる医師像が変わってきたのは、現代の疾患・患者像が変化してきたからです。
- 高齢化に伴い慢性疾患を抱える患者の増加
- 心と体の関連が示唆される病の増加
- ライフスタイルに関連した病の増加
- 複数の問題を同時に抱える患者の増加
- 医療費の増大
特に総合診療医の治療には大きな設備は必要ありませんから、医療費の増大を止める一因となるでしょう。
「医学を志す」を通して医師になる志を育てよう
今回の「医学を志す」特別企画は、国民健康保険上川医療センター・院長でいらっしゃる安藤高志先生にもご参加いただき、志門医学舎さんとの共催で開催されました。
新型コロナウイルスで明らかになったことは、日本の医師の偏在です。
地方では医師が足りず、医師への負担が大きくなっています。それと同時に、患者に対応しきれていない場面もあります。
このような問題に対して医療業界は、様々な対策を行っています。また、安藤先生のように総合診療医の果たす役割はこれからますます大きくなっていくでしょう。
医学部を目指す中高生に大切なことは、医療の現場を知ることです。知ることで、新たな目標が見つかったり、今まで以上に志が強まったりします。
ぜひ医学部受験を考えている中学生・高校生の皆さんは、「医学を志す」に参加してみてくださいね!
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過去の「医学を志す」イベントレポートはこちら
過去に開催された「医学を志す」のイベント開催レポートは、以下のリンクよりご覧いただけます。
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