先日、開催した「医学を志す」〜横市医学部 Special Edition〜の模様をお送りいたします。


登壇者紹介

 

日下部明彦 先生

横浜市立大学医学部医学科 総合診療医学 准教授

横浜市立大学附属病院 緩和ケアセンター/臨床倫理コンサルテーションチーム

横浜市人生の最終段階の医療等の検討会「人生会議」

横浜市医師会 常任理事

「地域の多職種で作った死亡診断時の医師の立ち居振る舞いについてのガイドブック」を作成。その教育的効果の論文で最優秀演題賞を受賞。医師にとっての「マナーマスター」への道のりを歩き始める。「マナーと言えば日下部」の異名をとる。「看取りの作法」で医学界新聞の表紙を飾る。横市ベストティーチャー賞を受賞。医学部の講義は、各々専門分野があるので1,2講義を担当するのが常だが、総合診療という分野であることもあり、多数の講義を担当し、後進の指導に勤しんでいる。医師を目指したのは親が医者だからという消極的な理由であり、淡々と仕事をしていた時代があったが、がん患者の看取りに立ち会ったことで緩和ケアと出逢い、情熱を燃やすことができた。緩和ケアを普及啓発することの必要性を痛感し、今に至る。

「緩和ケアとは?」

WHO:緩和ケアの定義2002

「生命を脅かす疾患に伴う問題に直面する患者と家族に対し、疼痛や身体的、社会的、スピリチュアルな問題を早期から正確にアセスメントし、解決することで苦痛の予防と軽減を図り、生活の質(QOL)を向上させるためのアプローチ。」

簡単に言うと、

「治らない病気の人たち、衰えていく人たちに対して、辛くなく穏やかにその人々が望む生活ができるようにサポートする医療・ケアのこと。

患者さんには様々な苦痛があり、下記の図のようにそれらを「全人的苦痛」と呼びます。

精神的な苦痛や社会的な痛みのサポートも考えていく必要があるというわけです。

緩和ケアでは、この苦痛を和らげることが目的になります。

医療の役割は二本柱。

  • 命を救う、命を延ばす
  • 生活の質(QOL)をあげる、保つ

この②が緩和ケアに求められていることであり、残された時間は限られてはいても、最後までできることだと考えています。

「死亡診断時の医師の立ち居振る舞いについてのガイドブック作成とそのきっかけ」

 横浜市立大学の医局をやめて、緩和ケア病棟の病棟長となりました。年間100人以上の受け持ち患者さんが亡くなっていきます。

自分で看取ることは、物理的に不可能なのでアルバイトの当直医にお任せしていました。

あるとき、デス・ケースカンファレンスでホスピス看護師から苦情がありました。

「当直医の先生の立ち居振る舞いによって私たちが積み上げてきた緩和ケアが台無しでした!」

年上の先生ですし、ケンカになったら当直をやめてしまうかもしれない、困ったなと思ったんです。そこで、この「ガイドブック」を作ることを思い立ちました。

実は、WHOの緩和ケアでは、死別後の家族のケアも必要と言われています。

患者が病の間も死別後も、家族が対処していけるように支援する体制を提供する、また、死別後の家族とのカウンセリングも必要に応じて行うべきとされていました。

ガイドブック作成の意義と背景は、

①死亡診断の場面での医師の立ち居振る舞いは、その後の遺族の悲嘆に大きく影響を及ぼすと考えられるということ。

②医師教育のなかには死後の内容はほとんど含まれず、※グリーフケアを意識して死亡診断を行う医師は少ないことが予想される。

※グリーフケアとは?

身近な人との死別を経験し、悲嘆に暮れる人を、悲しみから立ち直れるように支援すること

③主治医と主治医以外では死亡診断の場面での立ち居振る舞いに差があるかもしれない。

以上の3点です。

まず、緩和ケア病棟の看護師にアンケートを取りました。

多くの緩和ケア病棟看護師が、死亡診断時、主治医以外が診断を行う場合とそうでない場合では医師の立ち居振る舞いに差があると考えているという結果でした。

良い振る舞いについて

悪い振る舞いについて

これらのアンケートをもとにしてマニュアルを作成しました。学会で発表したところ、思うよりも反響がありました。

とある方から、研究費をもらって在宅のフィールドでマニュアルを作りなおそうと声を掛けられ、研究することにしました。

在宅クリニック勤務医時代

 当時、勤務していたクリニックでは主治医が看取る確率は、39%。

今後も施設が大きくなるにつれて主治医以外が看取ることが多いだろう。そうすると、マニュアルがやはり必要だと思いました。

そこで、緩和ケアの第一人者である森田達也先生に聞こうと思い立ちました。講演会後の懇親会の合間に突然、研究企画書を持って行き、見ていただきました。

面白いということで、研究のいろはについてご指導いただきました。

研究のコンセプトとしては、

「地域の多職種協働でマニュアルを作る」というもの。

地域の医師にアンケートをとったところ、多くの医師が賛同してくれました。

医師のインタビュー

マニュアルの作成によって、医師による差がなくなり、他の医師が何を大事にしているかを見える化できました。

今では、教育によって改善されてきましたが、昔はカルテを見ておらず、「患者のおおむねの病状の経過を知らないことが多かった」んですね。

しかし、「家族は知っていてほしい」と考えているわけです。他にも家族が要望していることは沢山あります。それがこれです。

こういうデータがあると、医師に対して家族はこう思っているよと教育をできるわけですね。

死亡診断の具体的なプロセス

ガイドブックの作成を通して、それぞれの医師が自らの立ち居振る舞いを見直し、遺族の悲嘆のケアを意識するきっかけになることが重要であると感じました。

また、地域の多職種による共同研究、マニュアル作成は、互いに教育的であり、地域連携をよりスムーズにするかもしれないと思い至りました。

このときに「連携」ってプロセスこそが大事だなと思いました。

 

教員へ。教える立場から

急性期病院でがん患者さんの診断、告知、治療を行ってくる中で、私は内科なので外科に紹介する方もいれば、あとは緩和ケアの人が多いので、大学病院からホスピスを紹介することもありました。

 

ホスピスの紹介をしているけど、本当にいいところなのか?という疑問が湧いてきました。

 

5年くらいやったら、「もしかして、在宅医療の方がよりいい緩和ケアが行えるのではないか?」という気持ちが強くなり、在宅療養支援診療所に移りました。

 

そして、本当にシームレスな連携が取れるようになるには、「大学等で発信しなくてはいけないのではないか?」特に若い人に教えなくてはいけないのではないかということで大学に勤めることにしました。

 

現在の国の考え方は、緩和ケアが専門にできる医師を増やすのではなく、緩和ケアを医師皆にやってもらおうという方針です。

 

なので、緩和ケアは誰でもできるというテーマで講義をしています。どんなに医学が進歩しても医療、対人援助の原点です。

 

全人的な苦痛の中でも、「スピリチュアルペイン」が全ての援助者の基礎となります。

どの声掛けが適切でしょうか?実際に医師看護師の国家試験で出る問題です。考えてみましょう。

答えは、③です。

スピリチュアルケアの根本は、

その方に常に関心を向ける
気持ちをわかろうとする姿勢
病気以外のこともよく話を伺う
共に時間を過ごす
隣に座り、眼を同じ高さにする
ほがらかで親切であること
何気ない日常生活での工夫

という「人として関わろうとする」姿勢に尽きるのではないだろうかと考えています。

医師のスピリチュアルケアは診察と誠実に病状説明をするということだと思います。

診断結果は正確に誠実に伝える。これがスピリチュアルケアに必要なことです。

患者の回診時も気を付けるべきことがあります。

カーテン越しに回診する医師も現実にいるんですね。

これでは、聞いてもらえないと患者さんは思いますよね。

ただ、自分が軽くあつかわれたということを認めることは難しく、きっと先生は忙しいから・・と言って患者さんは自分を納得させると思います。

しっかり、カーテンの中に入り、目の高さを合わせ、手を伸ばせば触れる位置で、何らかの声をかけなければいけません。

そうでなければ、体の不調は訴えにくいでしょう。

そうでなければ辛さの情報はもらえないのです。

また、医療においてできることをすべてやるだけでなく「引き算の医療」を考えることも必要になります。

病院は治療を目標に医療を提供する場所

自宅では安定した生活が目標

という切り替えも必要になります。

 

最後に。編集後記

 講演の最後に日下部先生から

「若いころは、了見が狭く、医師の仕事は親の仕事をなぞるようで、自由がないように考えていましたが、この10年は医師の仕事は無限に広げられると思うようになりました。自分の好きなことや経験はなんでも活かせます。やってみると、自分がいかせるいい仕事・非常に面白い職業だと思います。」

 その後質問の時間を取りましたが、中高生から多くの質問がありました。また、軽妙な語り口で、ユーモアあふれるお話とともに緩和ケア、患者の最後の看取りという重要なテーマについて。その後のグループワークも日下部先生の講演内容を受けて活発に意見が飛び交いました。

以下、参加者の感想

「講演会を通じて今まで知らなかった緩和ケアや在宅医療について沢山のことを知れた。」

「緩和ケアや医師・医学生の教育について、貴重なお話をきくことができた。」
「人生の最終段階における医療についてあまり知らなかったので、知れてよかった。グループワークでは様々な視点を知る機会になった。」

日下部先生は、作成したガイドブックを使用して横浜市立大学医学部で講義を行い、その教育効果についての研究成果を第22回日本緩和医療学会で発表し、最優秀演題賞を受賞しています。現在は「終末期がん患者のパートナーが入院中に必要だと思うセクシュアリティやインティマシーへの配慮やサポートについての研究」をされています。

 

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